東西とぅ~ざぃ

秋から師走にかけてのお話をします。お叱りを覚悟で落語風に語ります。話の構成上、話者が江戸時代と現在を行き来する要があり、何より美味しそう~に呑まれる、あの至芸に敬意を表したかったのです。それでは、ごゆっくり、お楽しみください。


新酒の季節は杉玉色で

どうも、ありがとうございます。
お忙しいのに、こんな所に来ちゃって。

これも日頃の行いが悪いから。
スパッと諦めて、笑ってください。

これからお酒の話をいたします。
呑むって楽しい、なアレでございます。


あらためて思い返しますと、
なんと申しましょうか、

お酒というのは大変有難いもので、
飲むと気持ちがほぐれてまいります。

いかめしい顔をなさっていた御仁も、
気難しそうだった淑女も、
いつの間にやら笑顔になって。

この力を
古(いにしえ)の方は
心得ていたんでしょうね。

正月や結婚式の祝い酒、
桜が咲けば花見酒、
夏が来れば花火酒。

そんなのあったけ? は
気にしないで進みますよ!

とにかく(笑)、
楽しい時には、お酒が付くように
なりました。

江戸時代の宴の風景です。畳敷きの広間に、朱色の漆膳が並びます。膳には椀が3つ。皿1つ。手前に酒器。徳利です。空の食器を見るだけで、めでたい気分になってきます。矢嶋ストーリー作品「新酒の季節は杉玉色で」(矢嶋 剛・著)の作品イメージ写真1です。



そんな楽しい伝統が
旨い!とセットになるんですから、
お酒を飲む楽しみは
どんどん大きくなっていきます。

下司な想像も
どんどん膨らんでまいります。

たとえばラーメン屋に入って、
とりあえず餃子一枚頼んで、
程よく焼けたヤツが出てくる…

なんて想像しますと、もう大変です。

冷えたビールで頭がいっぱい(笑)

もうちょっと高級なところだと、
刺身なんかを思い浮かべます。
すると、やはりお酒が…

こんなときは日本酒ですかね?

「今宵は冷(ひや)? それとも燗?」

なんてね。

馬鹿ですね~ 我ながら。

でも、こんな時間が
一番の贅沢かもしれません。
なんて馬鹿馬鹿しいお噺を1つ。


お酒が好き。
なかでも日本酒を愛する方は、
なんとかヌーヴォーじゃありませんが、
季節初めに出来る酒、新酒ってやつを
殊のほか楽しみにされております。

この心持ち、
その方がたくさん召し上がるとか、
ときどき虎に…とは少し違うようで。

と申しますのも、
出来立て搾り立ての新酒というやつは、
なんとも言えぬ香りがします。

フワ~と来ます。
あのフワ~が
いとも簡単に多くの方を
虜(とりこ)にしてしまうんですね。

そんな新酒を楽しみに待つ若い大工が
本日の主役。名を熊吉と申します。

テッ…っていう
どっかの口の悪い熊じゃありません。
ありゃアメリカ。こっちは日本。

ある城下でのお話です。
時(とき)は江戸。季節は師走。
年の瀬のお話でございます。


熊吉、今朝も天下の往来を
元気に現場へと向かっております。

「おぉ寒い」とか言いながら、
この大路を歩いて二カ月余り。

秋から始まったお屋敷の手直しも
あと一息。
いただく手間賃で、無事に年を越せそうです。

そんな熊吉、ある店の前で
足を止めます。
造り酒屋。酒を醸(かも)す所です。

早朝ですから店は閉まっています。
仕事前に一杯引っかける熊吉ではないし…

では何が目当てか?と申しますと、
軒先の、頭上に飾られた立派な杉玉。

そいつを眺めたくて、
熊吉は足を止めるのです。

杉玉、こんな姿をしています。
(下の写真)

雨除け軒の付いた立派な杉玉でしょ!鳥取県智頭町で作っていただきました。著者・矢嶋 剛のmy杉玉です。日本のマーケティングの豊かさのシンボルとして、仕事場に飾っています。矢嶋ストーリー作品「新酒の季節は杉玉色で」(矢嶋 剛・著)のタイトル画像パート2です。



実はこれ、myボールならぬmy杉玉。
鳥取県智頭(ちづ)の産…
なんて話は置いといて…。

この杉玉、
歴史的な街並み、江戸情緒や
小京都で売る観光地で見かけます。
日本酒で売る居酒屋でも目にします。

ねっ、そこのお父さん!

とフザけながら、
ご一緒に頭をひねりたいんですが、

この杉玉、何のために飾るんでしょう?

「美味しい酒、あるよ~」
って看板?

はい、ご推察の通りでして、

今では
「美味しい酒、あり!」って意味で、
飲み屋さんや酒屋さんに飾られます。

でも本来は違うんだそうです。

「ただ今、お酒を仕込み中」
「もうすぐ出来ます」

ってメッセージを伝えるために
造り酒屋が店の前に飾ったのが元々。

えぇ、
造り酒屋さんでは
今でも続けていらっしゃいますね。

熊吉も実は、
そのメッセージを杉玉に感じて…

再び、熊吉のお話です。


毎朝、杉玉を見上げては
「もうすぐ、もうすぐ」と
笑みがこぼれる熊吉でありました。

何が嬉しいって、
杉玉の色が
こげ茶色、枯れ草色になっていく。
これが嬉しくて堪らない。

「ほんのふた月前、青かったよなぁ」

熊吉、思い返します。

切ったばかりの葉が
まだ青々としていた杉玉。

その杉玉が造り酒屋の軒に飾られ…。

あのとき、店の番頭さんと
「今年もいよいよですね~」と
軽口を叩いて。

そんな記憶が熊吉の頭をよぎります。

「ええ、杜氏(とうじ)が
 今年もよい酒を造ってくれそうです。
 酒米(さかまい)の出来も上々。
 仕込み終えたらぜひ一献!」

商売上手な番頭さんが言う事ですから
本当かどうかはわかりませんが、

米の刈り入れが終わり、
手の空いた農家の面々が
家で杉玉をせっせとこしらえる。

それを街に売りに来る頃には
杜氏も蔵入り。

今季はじめての
酒の仕込みが始まります。

それだけは間違いのない話。
毎年の決まり事、年中行事ですから。

「あとは杉玉の色を見るんだ」

先輩大工の八っさんが、
そう教えてくれました。

「なぁ、あの杉玉、
 飾り初めには未だ青いんだ。
 夏の葉の色そのままだ」

「けどな、次第に水っ気がなくなって、
 三(み)月で、すっかり枯れて…。
 この頃、酒も出来上がっている。
 そういう寸法なのさ」

「だから、今日の杉玉色を~」

見上げては
「また少し!」と
想う熊吉でありました。

日々の違いが? なんて野暮はなし!
熊吉には見えるんです。

杉玉が
「新酒は、もうすぐ、もうすぐ」と
語り掛けているように思えるんです。

これはもう、一つの幸せ!(^^)

ついでながら申し上げますと、
熊吉には新酒が飲める!の他に、
もう一つ楽しみがありまして…。

新酒を樽で買う。
それを気の合う仲間とワイワイやる。
そんな心づもりをしています。

実は新酒が出来たら
二斗樽、一升瓶で二十本入る大樽に
ドンと詰めてパッと買う。

そんな約束を、
先ほどの商売上手な番頭さんと
交わしています。

すでにお代も払い済み。
後は飲む当日に
集まった仲間から
ぼちぼち銭を集める算段。

儲けようとかじゃなくて、
ただ仲間と気分よく、
ぱ~っと盛り上がろうと思っています。

ところで、樽でお酒を買うと、
オマケがついてくるのをご存知ですか?

そうです。
杉の香りっていうオマケです。

樽の材、杉の板に含まれる、
あの爽やかな香りが、
出来立ての新酒のフワ~と、
樽の中で程よく混ざり…。

これが鏡開き、
樽の蓋(ふた)をパカ~ンと開ける
お目出度い瞬間を迎えますと、

辺りはもう、フワッ、フワワ~。
芳しい香りでいっぱいになります。

こんな事を申し上げますと、
日本酒はチョットな…方は、
顔を曇らせますが、

それは良いものですよ!

どこかで鏡開きに遭遇したら、
勇気を出して、接近してください(笑)

ついでにもう一つ申し上げますと、
お酒を樽で買うと、
あれ、付けてくれるんです。

切り立ての杉の一合枡です。
その枡へ樽から新酒を
こんな感じで注ぎますと…

切り立ての杉板を使った一合升に日本酒を注いだところ。杉の薫りと酒の香りが1つに混ざりあう瞬間は最高です。この楽しみ、新酒なら尚更。日本酒っていいなぁ~。矢嶋ストーリー作品「新酒の季節は杉玉色で」(矢嶋 剛・著)より。



「あぁこれが、日に日に見上げた…」

後日、熊吉、思ったそうで。

なんともいえぬ、幸せ時間。
杉玉、なかなかやりますね。

<(_ _)>(おしまい)

    

杉玉たちに をください